MCC(血流制限)トレーニングの秘訣:全身の効果と局所の効果がわかれば、MCCの使いどころが見えてくる!

このインタビュー記事では、患者さんにお勧めするべくトレーニングのメリットについて探ります。有澤先生が患者さんに伝えているトレーニングの必要性や効果に焦点を当て、MCC(血流制限)トレーニングの魅力を解説します。患者さんへのトレーニング指導に役立つ情報が満載です。

富山県滑川市 有澤接骨院 有澤忠紹先生
1階は接骨院、2階にはトレーニングジムTRAININGRABORATORYを開設。

【保有資格など】
・柔道整復師
・講道館柔道 五段
・NSCA JAPAN-CPT
・日本スポーツ協会公認スポーツ指導者
・日本体育協会スポーツリーダー
・加圧トレーニングスペシャルインストラクター(旧加圧トレーニング準統括指導者)
・KAATSUスペシャリスト認定
・介護予防訓練指導員(東京都健康長寿医療センター)
・滑川市柔道協会理事長
・滑川市柔道整復師会理事
・富山県防災委員所属

【略歴】
柔道整復師養成学校卒業後、10年近くの整形外科勤務を経て、地元富山県に帰省し、そこで県内初の加圧トレーニング専門ジムTRAINING LABORATORY(トレーニングラボラトリー)を立ち上げる。現在MCCを導入し、医療とスポーツの観点から『理想のカラダづくり』を目指し、地域密着型医療機関として地元市民の皆様の健康をサポートすると共に、アスリートの指導も行う。

行政からの依頼や柔道整復師会での学術研修などでの講師および講演などの実績をもち、各種スポーツ大会の救護および所属チームの監督として帯同し、選手のトレーニング指導やケアにも努める。
また柔道スポーツ少年団の理事長を兼務し、未来の青少年の育成にも携わる。

痛みやケガの原因は筋力不足が関係する

初診で来院された患者さんを診る時には、「なぜこの外傷が起こったのか?」を考える必要があります。なぜ転んだのか?なぜ痛めたのか?など。

つまずいて転んだのであれば、何が理由でつまずいたのか?つまずく時はどうしてつまずくのか?

実際に患者さんに歩いてもらうと、歩幅が狭くてすり足になっている、つま先が上がっていないため踵から着地できないといった様子が見受けられる場合があります。こういった問題は、筋力不足が問題の場合も多いです。

つま先を上げる筋肉や太ももを上げる筋肉が衰えてくると、足元に障害物があっても乗り越えられず、転倒してしまう場合があります。

そのような原因の患者さんには転倒の原因を説明する中で、「足の筋肉を強くしないとね」「いつまでも元気に歩くためには筋力トレーニングも必要だよね!」と患者さんにトレーニングの必要性を伝えています。

筋肉を育てるにはトレーニングが必要です。

患者さんには、次のような質問をしています。「日常生活の中で『一番きつい』『息が切れる』運動って、どんなことですか?」「筋肉を使わなくなったら、どれぐらい筋力が落ちていくかご存知ですか?」と。

患者さんからは、「畑仕事をやってるよ」「階段を上るのが生活の中で一番きついです」「ウォーキングをちゃんと毎日20分やっていますよ」と様々な答えが返ってきます。

しかし、ほとんどの場合、これらの活動は「筋肉を育てる負荷」とは言えません。

足腰の筋力を鍛えるために「ウォーキングをしています」という方は多いのですが、単にウォーキングだけでは十分な負荷がかけられず足腰の筋肉は強くなりません。

では、何をすれば良いのでしょうか?

一番お勧めなのはスクワットです。スクワットに限らず筋力トレーニングは、同じ筋肉を反復し動かすことが必要です。そして、その筋肉をより鍛えるためにはどれぐらいの負荷をかけるべきかを考える必要があります。ですが、高齢者や運動初心者の方は重たい物を持って(重い負荷で)トレーニングすることはできません。

そこで、MCCを使って加圧カフで筋肉を圧迫し、血液をちょっと絞った状態で動いてもらいます。これにより、立ったり座ったりの自重で行うただのスクワットが、まるで米袋を担いだ状態で行うスクワットと同じ、もしくはそれ以上の筋肉の疲労感があり、筋力トレーニングの効果もその時の刺激と同様の効果が期待できるのです。

MCCを使うことのメリットを説明するには他の何かと比較する。

1F接骨院院内
カーテンで仕切られたリハビリブース
患者さん向けのリハビリが行われる

1階の接骨院にはカーテンで区切られた8畳ほどのリハビリスブースが作られています。

患者さんから「中で息の荒い声が聞こえるけど、何をしているのですか?」とよく質問されます。患者さんが気になって聞いてくれれば説明するチャンスです。

膝に障害がある場合は下肢のトレーニングの必要性について説明し、肩に障害がある場合は肩のトレーニングの必要性について説明します。

例えば通常の肩のリハビリでのトレーニングでは、チューブを使用する事がありますが、これは動きによっては痛みを伴うことがあります。しかし、MCCを使ったトレーニングではチューブを強く引っ張る必要がありません。単に腕を前後に振るだけでも十分な負荷をかける事ができます。

また、ウチワを扇ぐ程度の動作でもダンベルを使用した時と同じように筋肉に負荷を加えた効果的なトレーニングができます。他の方法と比較すると、MCCは非常に効率的であり、トレーニングの感覚も同じかそれ以上を体感する事ができます(筋トレの疲労感や達成感もあります)。

こうしたMCCのメリットを説明すると、患者さんは「やってみようかな」という気持ちになりますが、トレーニングの効果を実感するためには継続が必要です。たまにしかMCCを行わず、その効果の実感が薄れてくると、患者さんは「何でこんなキツイ事をしているのか」と疑問を持つ方もおられるかもしれません。そのために定期的な「評価」が重要となるのです。

高齢者の場合は握力や歩行速度、大腿部や下腿部の周径囲測定、リハビリであればROMや筋力評価など、それぞれの目的に合わせた必要な評価を行い、定期的に再び同じ測定を行い評価する。数値化しておくと患者さんに変化を実感してもらいやすく役立ちます。

「3ヶ月後にも測定しますね」と伝えることで、患者さんはその瞬間さらに頑張る意欲を持つでしょう。トレーニングを始めた当初は、数回しかできなかった動作が1~2ヶ月後には楽々こなせるようになります。そのような変化が現れると、患者さんはトレーニングが楽しくなり、さらなる努力を惜しまなくなります。

またMCCでは圧力設定は大切な評価数値ですので初期の頃から記録しておく必要があります。

具体的な例を挙げると、ある患者さんは最初に100mmHgの圧力でスクワットを10回行っていましたが、徐々に圧力を上げていき、200mmHgで同じ回数のスクワットができるようになりました。しかし、患者さんは「いつまでも10回しかできないのだけど、いつになったら効果が出るの?」と不安に思われました。

そこで、最初の設定圧である100mmHgに戻して試しに同じトレーニングを行ったところ、驚くほど楽にスクワットができるようになっており、継続する事の効果を実感できたのです。 このような評価を記録し振り返る事で、患者さんは自身の変化を実感できます。トレーニングは辛いものですが、自分が成長していることを認識できるのです。そのためには、評価を行い、記録しておく必要があります。

お医者さんから「血液数値を改善するためにもトレーニングをすると良いよ」と言われた方、反対に「激しいトレーニングはダメですよ」と言われている方にもお勧め

「血糖値のコントロールのためにも少し運動したい」と言われている方や「激しい運動は駄目ですよ」と言われた方々が相談に来られます。どの程度のトレーニング量が最適なのかが患者さん本人には分からないからです。

そこで私たち柔道整復師やトレーナー、医療従事者の出番です。接骨院や治療院では、幅広い年齢層の患者さんやアスリートまでが来院されていますので、それぞれの方に合わせたトレーニングの内容や頻度、筋肉の育成の必要性を丁寧に説明する事でお互いの信頼関係を構築し、安心し信頼して頂いたのちにトレーニングの機会を提供することができます。

血管に圧をかけて緩めるMCCを行うと、毛細血管が活性化し、普段使われない部位まで血液が分散して流れ、一本の血管に流れる血液が分散するようになります。下半身のトレーニングをしっかり行うと、血圧の安定にも効果が期待できます。

筋肉は触媒(筋トレで全身と末梢にどんな反応がおこるのか?

MCCを使って筋肉の血流制限を行うと、筋肉内が酸欠状態になり、多くのトレーニングメニューや長時間のトレーニングを行う事ができません。これについては少ないメニューや回数で効果がだせるのか。という疑問が生じるかもしれません。しかし、MCCの特徴やメリットや筋トレの必要性を根気よく説明し、トレーニングを続ける事で得られた自己の変化を正しく評価することで、患者さんは納得してくれるでしょう。

MCCの最大の魅力は、筋肉の触媒としての作用です。筋肉内を虚血させて低酸素状態にすることで、局所だけでなく全身にも効果が現れます。成長ホルモンの分泌やIGF-1や幹細胞増殖因子の増加、毛細血管の増加など、さまざまな全身への反応が見られます。全身におこる反応と局所におこる反応を理解しておくことで、少ないメニューや回数でも効率よく効果の高いトレーニングを行うことが可能となります。

当院のトレーニングの価格設定

まず、治療家自身が、それに見合ったトレーニング指導が提供できているかを考えることが重要です。患者さんとの価値が一致すれば、その料金設定でトレーニングを続けていただけるでしょう。

5000円でトレーニング指導を提供するならば、これに見合う価値を提供できているのでしょうか?患者さんが「これだけの指導をやってもらって、5000円は安い!」と感じてくれれば、継続してトレーニングを受けてくれるでしょう。

トレーニングの指導を提供する際、ただ「トレーニングすると良いですよ!」というだけではなく、全身への影響や局所的でおこる効果、継続することで得られるメリットなどをしっかりと伝えることが必要です。

筋力トレーニングを継続する事で、患者さんにどんな幸せが待っているのかをお伝えできれば、患者さんは納得してトレーニングに取り組んでくれるでしょう。このように身体も意識も変われば、値段はあまり問題ではないのかもしれません。

継続するうえで重要なのは、トレーニングを必要と感じ、患者さん自身が楽しいと感じてくれているかどうかです。もっと言えば、トレーニングが患者さんの趣味となってくれればトレーニングを提供する側としてうれしい限りです。

好きな趣味にかける1回の金額を考えてみると、私の場合は好きなアーティストのアルバムCDを1枚買うぐらいの感覚です(現在はサブスクリプションでの配信が主流ですが笑)。

今では音楽アプリで簡単に聴けるようになっていますが、自分の好きな飲み物を用意し、居心地の良い空間を作り、CDプレーヤーのトレイを開けてCDをセットする瞬間までの準備までもが心地良く感じます。同様に、トレーニング指導の一環として、トレーニングウェアに着替えたり、シューズを履いたりする準備の時間も大切です。

このように、トレーニングの前のワクワク感を生み出す環境を作る事も施設の大切な役割だと思います。トレーニングの必要性、指導、評価、信頼関係、雰囲気・環境づくり、それら全てを含めて納得してもらえる金額であるべきだと思います。

接骨院の2階にあるTRAINING LABORATORY
様々なトレーニング器機が並ぶ
利用者のレベルに合わせてトレーニングを提供

スポーツ選手の施術例

■柔道部員(高校3年生)

ある高校3年生の柔道部員が、肘の剥離骨折で手術を受け、今後の進路に影響する大切な大会に出場が間に合わないかもしれない。という相談をうけました。

通常のリハビリでは間に合わないだろうと判断し、MCCの効果とメカニズムを説明し、MCCをやってみる事になりました。この時は下肢中心のトレーニングとMCCを活用した上肢のリハビリを行うことで、驚くべき回復を遂げました。

彼の腕の周径囲はあまり変化がなかったものの、前腕が顕著に太くなり、まわりからは「どんなリハビリを行ってるの?」と言われるほどだったそうです。この学生は早期に乱取り練習ができる程に回復し最終的に試合に間に合う事ができました。

柔道では腕の筋力が落ちると、すぐに組み手を切られてしまうので、握力はとても大切です。試合で活躍するには腕を、特に手術によって落ちた握力を強化するために前腕をトレーニングする必要がありました。それに並行して下肢や背中のトレーニングも行いました。

可動域制限があったため、改善しなければ試合に出場することは困難と言われましたが、彼の回復ぶりには主治医も驚いていたそうです。現在では、MCCだけでなくバーベルを使用した重量トレーニングも行うほど回復し、日々の練習に励んでいます。

■バスケットボール選手

バスケットボール選手の例では、半月板損傷や十字靭帯の損傷で当院を訪れました。靭帯損傷を起こした時の1ヶ月ごとの評価の方法や、荷重のかけ方のプラン、治療やリハビリは整形外科の専門マニュアルに基づいて行いますが、さらなる治療効果を上げるためにMCCを活用しています。治療の効果としては「ダッシュの切り返しやジャンプの着地に不安が無くなった」「ジャンプ中に身体をコントロールしやすくなった」との事でした。

また、学会やカンファレンスに参加することもとても重要だと思います。そこで他の治療家やトレーナーの意見を交わし、最新の治療方法やリハビリやトレーニングについて学ぶことができます。

特に医療の各分野の専門家との情報共有は非常に役に立ちます。整形外科疾患の治療方法や経過について、療法やトレーニングの手法を学ぶことで、より効果的なケアを提供できます。

トレーニングの年間計画「期分け」

トレーニングの年間計画についても考慮する必要があります。期分け「ピリオライゼーション」という考え方を取り入れ、競技のオフ期には全身の筋力をアップさせ、一方オンの時期には身体を絞り込みつつ、筋トレの頻度を減らし競技中心のトレーニングを増やしていきます。

年間を通じて1番メイン(試合など)の時期にその方が目指すパフォーマンスのピークを持っていけるよう、1年間のトレーニング計画を立てるのです。

一般の方には数ヶ月ごと、アスリートの方なら一般の方より細かな基本メニューを組み、さらに競技種目や個人の目標に合わせてメニューを調整します。

例えば、暖かくなり始めた春の時期には心拍数を少し上げるトレーニングを増やします。冬場には反動をつけるようなトレーニングはケガをしやすくなるので、じっくり筋力を使うトレーニングを行います。ゆっくりとしたトレーニングフォームが増えますので、最後に心拍数が上がるトレーニングを処方する場合もあります。

それから女性の場合は月経を考慮したトレーニングメニューの組み立てる必要があります。

MCCを併用し、生理周期に合わせたトレーニングをすると女性の身体でも筋肉を効率よくつける事ができます。そして筋肉の付きやすいベストな周期を知る事でモチベーションも高く保つ事もできます。

ホルモン系や循環器系にも効果のあるMCCは生理特有のむくみがある場合や体調がすぐれない時こそお勧めしています。また心拍数を上げた後にはピラティスやヨガ系の動きを多く取り入れた体操などを行います。

その後、上肢・下肢のトレーニングで筋肉がしっかり充血したところにストレッチを行うとかなりの爽快感を得ることができます。このトレーニングを体験している方は終了後、とても充実し、すっきりした顔で帰っていただけます。

筋トレ愛好家でもゴムバンドとMCCがあれば十分仕上げられる

トレーニングマシンがずらりと並ぶ部屋に入った瞬間、初めてジムを訪問された方はきっと驚くことでしょう。マシントレーニングの利点としては、使用方法を覚えてしまえば、運動の軌道やフォームのチェックが不要なため、トレーナーが毎回指導する必要がなく安心してトレーニングを行う事ができます。

しかし、本当にレベルの高いトレーナーが在籍しているトレーニングジムは、フリーウェイトとパワーラックが置いてあるだけのパーソナルスペースのあるジムだったりします。

このようなジムであれば、トレーナーのレベルは相当高いと思って間違いないでしょう。

そしてMCCを使えば、ただのゴムチューブが究極のトレーニングツールになり得る事もあります。これ一本で全身のトレーニングを行う事が可能です。筋トレ愛好家のわたしでも、MCCのベルトさえ巻けば、イメージ通りに筋肉を仕上げることができます。

ためしに、グリップを使ったトレーニングには、MCCのカフを巻いて挑戦してみましょう。ただグーパーする。それはまさに「修行」と思えるくらいの刺激があります。このようにMCCは効率よく前進の筋肉を刺激し鍛える事ができます。

ただし、「単なる修行」だけでは終わってはいけません。トレーニング後にはしっかりとケアを行いましょう。特にじっくりストレッチを行うと、いつもより身体が軽くかんじられ、筋肉が喜ぶ感覚は格別です。

ただ1つ気を付けたい事として、MCCに限らず筋力トレーニングはきつく辛い場合もありますが、「きつい事を行う事」が目的になってはいけません。圧力や重量負荷をかけた状態がすでにキツイ場合もあります。また今日は思ったより楽にできたという日も必ずあります。

その日の患者さんやクライアントの体調をみながら、自分が処方したプログラムや評価に自信をもって、思わぬケガや事故を予防するためにも、その日の思いつきで処方を変えたり、流れ作業で指導にあたらないように心がける必要があると思います。 さまざまな手法を模索しながらトレーニングに取り組んでいきたいと思います。MCCは本当に素晴らしい手法です。自らもMCCを実践し、これからも研鑽に努め、全国に広まっていくことを期待しています。